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第1話 / 全1話

北口のロッカー

人生図書館 · 1,137字 · 約2分

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 大宮駅の北口に、三百円のコインロッカーがある。改札を出て左、エスカレーターの裏。上から二段目の、左から四番目。

 俺はそこに、ギターを入れていた。

 入れていた、というか、住まわせていた。専門学校を三か月でやめて、寮を出て、友だちの家を転々としていたころだ。荷物はリュック一個で済んだけど、ギターだけはどうにもならなかった。ケースに入れると人の家の玄関を半分ふさぐ。だからロッカーに入れた。

 三百円は、一日の値段だ。三日放っておくと、駅員が中身を出して、どこかに保管する。だから俺は、三日に一度、大宮に行った。取り出して、隣のロッカーに入れ直す。それで三百円。月に三千円くらい。家賃だと思えば安い。ギターの家賃。

 バイトはカラオケ屋の夜勤で、南浦和だった。深夜二時に休憩が入る。一人で、ドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、誰も入っていない部屋のモニターを見る。モニターには、前の客が最後に歌った曲のタイトルが残っている。「糸」とか「粉雪」とか。たまに知らないボカロの曲。

 俺は、その部屋に入って、歌わずに、モニターの歌詞だけ見ていた。

 ギターは、ロッカーの中で、弾いていなかった。

 弾く場所がなかった。友だちの家では弾けないし、カラオケの休憩中に持ち込むのも変だ。ロッカーの前で弾くわけにもいかない。

 だから、三日に一度、取り出して、入れ直す。それだけだった。

 これ、意味あんのかな、と思いながら。

 冬の、たぶん一月の終わりだった。

 いつものように取りに行ったら、ロッカーが空いていた。扉が半開きで、中に何もなかった。

 俺は最初、ロッカーの番号を間違えたと思った。上から二段目、左から四番目。合ってる。隣も、その隣も、開けてみた。ない。

 三日じゃなくて、四日だった。バイトのシフトが変わって、一日ずれた。それだけだった。

 駅の事務室に行くと、年配の駅員が出てきて、台帳を見て、奥からギターケースを持ってきた。

「これですか」

「はい」

「保管料が、ね、かかるんです。一日ごと」

「いくらですか」

「四日で……」

 駅員は電卓を出した。俺は財布の中身を数えた。足りた。ぎりぎり。

 ケースを受け取るとき、駅員が言った。

「弾くの?」

「え」

「これ。弾くの?」

「……弾いてないです。最近」

「そう」

 駅員はそれ以上何も言わなかった。俺も何も言わなかった。

 ケースを背負って、北口を出た。外は暗くて、寒くて、俺はギターを背負ったまま、行くところがなかった。

 結局その夜、俺はバイトに行かずに、大宮公園のベンチでギターを出した。手がかじかんで、コードがほとんど押さえられなかった。Gだけは、押さえられた。Gをずっと鳴らしていた。

 誰も通らなかった。

 それが良かったのか悪かったのか、いまでもわからない。ただ、ロッカーに戻すのは、その日でやめた。

この作品はここで完結です。

読んでくださって、ありがとうございます。よかったら作者に一言を。

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