大宮駅の北口に、三百円のコインロッカーがある。改札を出て左、エスカレーターの裏。上から二段目の、左から四番目。
俺はそこに、ギターを入れていた。
入れていた、というか、住まわせていた。専門学校を三か月でやめて、寮を出て、友だちの家を転々としていたころだ。荷物はリュック一個で済んだけど、ギターだけはどうにもならなかった。ケースに入れると人の家の玄関を半分ふさぐ。だからロッカーに入れた。
三百円は、一日の値段だ。三日放っておくと、駅員が中身を出して、どこかに保管する。だから俺は、三日に一度、大宮に行った。取り出して、隣のロッカーに入れ直す。それで三百円。月に三千円くらい。家賃だと思えば安い。ギターの家賃。
バイトはカラオケ屋の夜勤で、南浦和だった。深夜二時に休憩が入る。一人で、ドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、誰も入っていない部屋のモニターを見る。モニターには、前の客が最後に歌った曲のタイトルが残っている。「糸」とか「粉雪」とか。たまに知らないボカロの曲。
俺は、その部屋に入って、歌わずに、モニターの歌詞だけ見ていた。
ギターは、ロッカーの中で、弾いていなかった。
弾く場所がなかった。友だちの家では弾けないし、カラオケの休憩中に持ち込むのも変だ。ロッカーの前で弾くわけにもいかない。
だから、三日に一度、取り出して、入れ直す。それだけだった。
これ、意味あんのかな、と思いながら。
冬の、たぶん一月の終わりだった。
いつものように取りに行ったら、ロッカーが空いていた。扉が半開きで、中に何もなかった。
俺は最初、ロッカーの番号を間違えたと思った。上から二段目、左から四番目。合ってる。隣も、その隣も、開けてみた。ない。
三日じゃなくて、四日だった。バイトのシフトが変わって、一日ずれた。それだけだった。
駅の事務室に行くと、年配の駅員が出てきて、台帳を見て、奥からギターケースを持ってきた。
「これですか」
「はい」
「保管料が、ね、かかるんです。一日ごと」
「いくらですか」
「四日で……」
駅員は電卓を出した。俺は財布の中身を数えた。足りた。ぎりぎり。
ケースを受け取るとき、駅員が言った。
「弾くの?」
「え」
「これ。弾くの?」
「……弾いてないです。最近」
「そう」
駅員はそれ以上何も言わなかった。俺も何も言わなかった。
ケースを背負って、北口を出た。外は暗くて、寒くて、俺はギターを背負ったまま、行くところがなかった。
結局その夜、俺はバイトに行かずに、大宮公園のベンチでギターを出した。手がかじかんで、コードがほとんど押さえられなかった。Gだけは、押さえられた。Gをずっと鳴らしていた。
誰も通らなかった。
それが良かったのか悪かったのか、いまでもわからない。ただ、ロッカーに戻すのは、その日でやめた。