中三の五月から、教室に行けなくなった。
理由は、いくつかあって、ひとつに絞れない。絞れないから、誰にも説明できなかった。母には「体がだるい」と言った。それは嘘ではなかった。
図書室に行けるようになったのは、夏休みの補習期間だった。
母が学校に相談して、「図書室なら」ということになった。教室じゃなくて、図書室。なぜ図書室ならいいのか、私にはよくわからなかったけれど、行ってみたら、行けた。
図書室は校舎の一番端で、廊下を通らずに外階段から入れた。
司書の先生は、桐生先生といった。
五十くらいの女の人で、髪を後ろでひとつに結んでいた。
初日、私が入っていくと、先生は「おはよう」と言って、それだけだった。名前も聞かなかった。もう知っていたのだと思う。
私はカウンターから一番遠い席に座って、本を読むふりをした。読んでいなかった。文字が入ってこなかった。
三日目に、先生が言った。
「これ、手伝ってくれる?」
返却された本の山だった。分類番号を見て、棚に戻す。
私は、やった。
やることがあると、時間が過ぎた。
夏休みのあいだ、私は毎日図書室に行った。
先生は、私に「なんで来られないの」とは、一度も聞かなかった。
かわりに、本の話をした。「この本、返ってくると必ず角が折れてるのよ」とか、「この作家は最初の三十ページを我慢すると面白いわよ」とか。
私は少しずつ、返事をするようになった。
八月の終わりに、先生が言った。
「九月から、どうするの」
「……わかりません」
「そう」
先生はそれ以上、言わなかった。
「図書室は、開いてるから」
それだけだった。
九月、私は教室に戻れなかった。
図書室には行った。
十月も、十一月も。
二学期の終わりに、一時間だけ教室に入った。三学期には、週に二日。卒業式は、出た。
桐生先生は、卒業式の日、体育館の後ろに立っていた。私を見て、少し頷いた。
私も頷いた。
それだけだった。
私は今、司書をしている。
高校の図書室で、返却された本を棚に戻している。
教室に来られない子が、たまに図書室に来る。
私は、なんで、とは聞かない。
「これ、手伝ってくれる?」
と言う。