検査結果を聞きに行く日、私は朝から洗濯物を三回たたみ直した。
一回目は普通にたたんだ。二回目は、タオルの端が揃っていない気がしてたたみ直した。三回目は、理由がなかった。
夫は居間で、テレビを見ていた。見ていない目で、見ていた。
病院の診察室は、狭かった。
医師は若くて、丁寧で、私たちの目を見て話した。
話した内容を、私は覚えていない。
覚えていないのではなくて、聞いていたのに、頭に残らなかった。単語は聞こえた。「ステージ」「進行」「選択肢」「ご家族と」。聞こえたのに、並ばなかった。
夫は、「はい」「はい」と答えていた。
私は、医師の机の上のペン立てを見ていた。ボールペンが三本と、蛍光ペンが一本。蛍光ペンは黄色だった。
そのことを、今もはっきり覚えている。
診察室を出て、会計を待つあいだ、夫は「腹減った」と言った。
病院を出て、駅までの道にコンビニがあった。
夫はおにぎりを二つと、お茶を買った。私は何も買わなかった。夫がレジで「袋いりません」と言って、おにぎりを両手に持って出てきた。
駅前のベンチで、夫はおにぎりを食べた。
鮭と、昆布だった。
私は横に座っていた。
夫が、食べながら言った。
「これ、うまいな」
「そう」
「コンビニのおにぎり、久しぶりに食った」
「そう」
夫はふたつとも食べた。私は、夫がおにぎりを食べるのを、見ていた。
夫が食べる、ということを、私は初めて見るみたいに見ていた。口を開けて、噛んで、飲み込む。それを、この人はこれからも、できるだけ長く、続けるのだ。
と、思った。
それが、私があの日、考えられた唯一のことだった。
家に帰って、夫は昼寝をした。
私は洗濯物を、もう一回たたみ直した。
その日の夜、私は初めて、検査結果の紙を読んだ。
読めた。
単語が、並んだ。
夫が寝ている隣の部屋で、私は紙を三回読んで、それから冷蔵庫に、明日の朝のおにぎりの具を確認しに行った。
鮭は、あった。