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第1話 / 全1話

検査結果の日

人生図書館 · 781字 · 約1分

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 検査結果を聞きに行く日、私は朝から洗濯物を三回たたみ直した。

 一回目は普通にたたんだ。二回目は、タオルの端が揃っていない気がしてたたみ直した。三回目は、理由がなかった。

 夫は居間で、テレビを見ていた。見ていない目で、見ていた。

 病院の診察室は、狭かった。

 医師は若くて、丁寧で、私たちの目を見て話した。

 話した内容を、私は覚えていない。

 覚えていないのではなくて、聞いていたのに、頭に残らなかった。単語は聞こえた。「ステージ」「進行」「選択肢」「ご家族と」。聞こえたのに、並ばなかった。

 夫は、「はい」「はい」と答えていた。

 私は、医師の机の上のペン立てを見ていた。ボールペンが三本と、蛍光ペンが一本。蛍光ペンは黄色だった。

 そのことを、今もはっきり覚えている。

 診察室を出て、会計を待つあいだ、夫は「腹減った」と言った。

 病院を出て、駅までの道にコンビニがあった。

 夫はおにぎりを二つと、お茶を買った。私は何も買わなかった。夫がレジで「袋いりません」と言って、おにぎりを両手に持って出てきた。

 駅前のベンチで、夫はおにぎりを食べた。

 鮭と、昆布だった。

 私は横に座っていた。

 夫が、食べながら言った。

「これ、うまいな」

「そう」

「コンビニのおにぎり、久しぶりに食った」

「そう」

 夫はふたつとも食べた。私は、夫がおにぎりを食べるのを、見ていた。

 夫が食べる、ということを、私は初めて見るみたいに見ていた。口を開けて、噛んで、飲み込む。それを、この人はこれからも、できるだけ長く、続けるのだ。

 と、思った。

 それが、私があの日、考えられた唯一のことだった。

 家に帰って、夫は昼寝をした。

 私は洗濯物を、もう一回たたみ直した。

 その日の夜、私は初めて、検査結果の紙を読んだ。

 読めた。

 単語が、並んだ。

 夫が寝ている隣の部屋で、私は紙を三回読んで、それから冷蔵庫に、明日の朝のおにぎりの具を確認しに行った。

 鮭は、あった。

この作品はここで完結です。

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