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第1話 / 全1話

三十年目の同窓会

人生図書館 · 859字 · 約2分

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 中学の同窓会の案内が来た。

 三十年ぶり、と書いてあった。三十年、と自分で数え直して、本当だった。

 出るつもりはなかった。中学は、いい思い出がない。

 でも、案内の下に幹事の名前があって、それが、片岡(かたおか)だった。

 私は出席に丸をつけた。

 片岡は、中学二年のとき、私を庇った。

 庇った、というのは、たぶん本人は覚えていないくらいのことだ。

 私が教室で、ある男子に、鞄の中身を床にぶちまけられたとき、片岡が「やめろよ」と言った。一回だけ。大きな声ではなかった。男子は「は?」と言って、それでも、やめた。

 私は片岡に礼を言わなかった。言えなかった。恥ずかしかった。

 片岡とは、その後もほとんど話さなかった。卒業して、それきりだった。

 三十年、私はそのことを、たまに思い出した。

 たまに、というより、けっこう思い出した。

 同窓会は、駅前の居酒屋だった。

 三十人くらい来ていた。顔と名前が、半分は一致しなかった。

 片岡は、受付にいた。

 太っていて、頭が薄くなっていて、でもすぐにわかった。

「おう」

 と片岡は言った。私の名前を、覚えていた。

「久しぶり」

「久しぶり」

 それだけで、片岡は次の人の受付に移った。

 宴会の途中で、私は片岡の隣に座った。

 ビールを注いで、少し話した。仕事のこと、子どものこと。片岡は工務店をやっていて、娘が二人いた。

 私は、二年のときの話を、しようと思った。

 あのとき、ありがとう、と。

 言おうとして、言えなかった。

 三十年前と同じだった。恥ずかしかった。今さら、と思われる気がした。

 片岡は、私のことを、たぶんそんなふうには覚えていない。「あの子」くらいの記憶だと思う。

 私にとっては三十年で、片岡にとっては、一回の「やめろよ」だ。

 帰りぎわ、片岡が言った。

「また来いよ。次は五年後くらいにやるから」

「うん」

「元気でな」

「うん」

 私は駅まで歩いて、電車に乗って、家に帰った。

 言えなかった。

 でも、出席に丸をつけて、行って、隣に座って、ビールを注いだ。

 三十年前の私には、それもできなかった。

 それで、いいことにした。

 五年後に、また行くかどうかは、わからない。

この作品はここで完結です。

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