息子が捕まったと聞いたのは、水曜日の夜だった。
警察からではなく、息子の友だちだという若い男から、電話があった。名乗らなかった。「お父さんですか」と言って、それだけを言って、切れた。
次の日、弁護士から電話が来て、罪名を聞いた。
私はそれを、妻に言うまでに、二日かかった。
保釈金は、二百万円だった。
弁護士は「ご用意できますか」と言った。
できた。定期預金があった。妻と、老後のために積んでいたものだ。
私は銀行に行って、解約した。窓口の女の人が「ご解約の理由を伺ってもよろしいですか」と言った。決まりで聞くのだと思う。私は「入り用で」と言った。女の人は、それ以上聞かなかった。
二百万円を、封筒で受け取った。厚みが、思ったより薄かった。
裁判所の窓口は、地下にあった。
私は封筒を出して、書類を出した。
窓口の男の人は、書類を見て、封筒の中を数えて、何も言わずに受領書を出した。
私の顔を、一度も見なかった。
それが、ありがたかった。
見られたら、私は何かを言っていたと思う。すみません、とか、息子が、とか。言う必要のないことを。
息子は、その日の夕方に出てきた。
私は迎えに行かなかった。弁護士が「お父さんは来ないほうが」と言ったからだ。息子が嫌がる、ということだった。
息子は、弁護士の車で家に帰ってきた。
玄関で、私と目が合った。
息子は何も言わなかった。私も何も言わなかった。妻が「ご飯、食べる?」と言った。息子は「いい」と言って、自分の部屋に入った。
裁判は三か月後だった。
執行猶予がついた。
弁護士は「よかったですね」と言った。私は「はい」と言った。よかったのかどうかは、わからなかった。
保釈金は、戻ってきた。
二百万円。銀行の窓口で、私はそれをまた定期に入れた。同じ女の人だった。女の人は「ありがとうございます」と言った。私の顔を、覚えていなかったと思う。
息子は今、働いている。
私とは、ほとんど話さない。
保釈金のことを、息子は知っているのかどうか、わからない。弁護士が言ったのかもしれないし、言っていないのかもしれない。
私は、言っていない。
言わないと決めたわけではない。ただ、言うと、何かが崩れる気がして、言えないでいる。
二百万円は、定期預金に戻って、また少しずつ利息がついている。