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第1話 / 全2話

夜勤の人

人生図書館 · 629字 · 約1分

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 入院して、十四日目になった。

 昼間は、検査と、面会と、テレビで過ぎていく。つらいのは、夜だ。

 九時に消灯して、それから朝の六時まで、何もすることがない。眠れない夜は、点滴の落ちる音を数える。ぽつ、ぽつ、と一定の間隔で落ちる。数えていると、いつの間にか朝になっていることもあるし、ならないこともある。

 夜勤の看護師さんは、三人が交代で来る。

 その中の一人、名札に「小野」と書いてある人が、私は好きだった。

 小野さんは、夜中の二時ごろに巡回に来る。懐中電灯で点滴を確認して、それから、いつも少しだけ窓を開けてくれる。

 五センチくらい。

 「空気、入れ替えますね」と小さな声で言って、五分くらいしたら閉めに来る。

 私は最初、それが病院の決まりなのだと思っていた。でも、ほかの二人はしなかった。

 小野さんだけだった。

 二十日目の夜、私は眠れずに、小野さんが来たとき、起きていた。

「眠れませんか」

「……はい」

「窓、開けますね」

 夜の空気が入ってきた。少し冷たくて、雨の匂いがした。

「小野さん、なんで窓、開けてくれるんですか」

 小野さんは、少し考えてから言った。

「私も、入院してたことがあって」

「……」

「そのとき、夜が一番しんどかったんです。病院の匂いしかしなくて。外があるってこと、忘れちゃって」

「はい」

「だから、外の匂い、五分だけ」

 私は、天井を見ていた。

「ありがとうございます」

「いえ」

 小野さんは、五分後に窓を閉めに来た。

 その夜、私は、点滴の音を数えなかった。

 代わりに、雨の匂いを覚えていた。