入院して、十四日目になった。
昼間は、検査と、面会と、テレビで過ぎていく。つらいのは、夜だ。
九時に消灯して、それから朝の六時まで、何もすることがない。眠れない夜は、点滴の落ちる音を数える。ぽつ、ぽつ、と一定の間隔で落ちる。数えていると、いつの間にか朝になっていることもあるし、ならないこともある。
夜勤の看護師さんは、三人が交代で来る。
その中の一人、名札に「小野」と書いてある人が、私は好きだった。
小野さんは、夜中の二時ごろに巡回に来る。懐中電灯で点滴を確認して、それから、いつも少しだけ窓を開けてくれる。
五センチくらい。
「空気、入れ替えますね」と小さな声で言って、五分くらいしたら閉めに来る。
私は最初、それが病院の決まりなのだと思っていた。でも、ほかの二人はしなかった。
小野さんだけだった。
二十日目の夜、私は眠れずに、小野さんが来たとき、起きていた。
「眠れませんか」
「……はい」
「窓、開けますね」
夜の空気が入ってきた。少し冷たくて、雨の匂いがした。
「小野さん、なんで窓、開けてくれるんですか」
小野さんは、少し考えてから言った。
「私も、入院してたことがあって」
「……」
「そのとき、夜が一番しんどかったんです。病院の匂いしかしなくて。外があるってこと、忘れちゃって」
「はい」
「だから、外の匂い、五分だけ」
私は、天井を見ていた。
「ありがとうございます」
「いえ」
小野さんは、五分後に窓を閉めに来た。
その夜、私は、点滴の音を数えなかった。
代わりに、雨の匂いを覚えていた。