退院は、三十一日目の朝だった。
荷物をまとめて、看護師さんたちに挨拶をした。
小野さんは、夜勤明けで、ちょうど帰るところだった。
「おめでとうございます」
「ありがとうございました」
私は、それ以上何を言えばいいか分からなかった。
小野さんは、少し笑って、言った。
「外、いい天気ですよ」
「はい」
「深呼吸、してくださいね」
病院の玄関を出て、私は言われたとおりに深呼吸をした。
外の空気は、五センチの隙間から入ってくる空気と、同じ匂いがした。
私は、しばらく立ち止まっていた。
それから、家に向かって歩き出した。
あれから二年になる。
私は、夜、眠れないとき、窓を五センチだけ開ける。
五分だけ。
外の匂いを吸って、閉める。
それで、だいたい、眠れる。