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第2話 / 全3話

リハビリ室

人生図書館 · 507字 · 約1分

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 母のリハビリは、思っていたよりずっと地味だった。

 手すりにつかまって、五メートルを歩く。それだけのことに、二十分かかる。理学療法士の若い男の人が、「いいですね、いいですね」と繰り返す。母はそのたびに、かすかに笑った。

 私はその横で、スマホを握りしめて立っていた。会社からのメールが溜まっていく。返さなければ、と思う。でも、母が一歩を踏み出すたびに、画面から目が離れた。

「あんた、仕事は」

 三週間目に、母が初めてはっきりとそう言った。左の口元が少し下がったままの、慣れない話し方だった。

「休んでる」

「帰りなさい」

「もう少しいる」

「……カレー」

「え?」

「冷蔵庫の。食べた?」

 私は首を振った。母は、ふん、と鼻を鳴らした。それは怒っているときの母の癖で、私はなぜだかとても安心した。

「あれ、あんたが帰ってくると思って作ったの。三月に電話くれたでしょ。来月行くって。来なかったけど」

 私は何も言えなかった。三月の終わりに、確かにそう言った。仕事が立て込んで、そのまま四月になった。

「冷凍しといたから、まだ食べられる」

「……うん」

「ちゃんと温めなさいよ。レンジだと真ん中が冷たいから、鍋で」

 母は、こういうときにいつも、料理の話をする。